崖っぷちの転職活動では失敗は許されませんでした。
とにかく後がなかったのです。
33歳での転職活動では、無職でアルバイトの期間が3年ありました。
資格取得のための勉強をしていたと言えば聞こえは良さそうですが、結局合格をすることができずに無資格のままです。
無駄な3年間を過ごしたことは、転職に不利になるだけでなく、仕事を覚えるべき貴重な期間を何もしないで過ごしてきたことと変わりありませんでした。
そんな風に気楽に考えていたのは20代まで。
なぜか明るい未来が当然にやってくると思っていた20代。
ふつうに暮らしていれば普通の生活がふつうにやってくると思っていた20代。
けれども、会社を辞めてふつではなくなった後には、やはりふつうに考えても厳しい道のりしか残っていないようにしか思えませんでした。
転職活動を再開して久しぶりに求人票を手にしてみて、自分の年齢のハードルの高さに気が付いたのでした。
- 失敗できない。
- 後がないかも。
そんな風に感じた崖っぷちの転職活動では、できることは何でもやろうと思いました。
ふだんはあまり無料相談コーナーのようなところには行くことはなかったのですが、藁にもすがって相談をしてみました。
当時はまだインターネットでも求人サイトもいまほどではなかったにしろ、とにかくそうしたサイトを覗いて求人情報をさがしていました。
特にハローワークの無料相談では職務経歴書の書き方まで指導してくれました。
第三者の目で見て自分の職務経歴書を評価・添削指導してくれるのは本当に助かりました。
ひとりで転職活動をしていたら、添削のされていない職務経歴書をあちこちに持ち込んではいつまでも不採用になっていたかもしれないと思うとゾッとします。
しかも、無料サービスなのでこうしたサービスはどんどん活用するべきだと思います。
その道のプロに素直にお願いして従った方が、断然速く良いものができるのです。
スピード写真の陰鬱な表情をなんとかしたい
職務経歴書が出来上がってくると、いよいよ面接へと進むわけですが、履歴書にはる写真で困ったことになりました。
いまでは、街角の写真機でもきれいな写真が撮れるようになっています。
当時はまだ「美白モード」なんて気の利いた写真機はありませんでした。
写真機のBOXの中で何度も撮り直しをするのですが、出来上がる写真はどうもみすぼらしいのです。
おそらく、崖っぷちの転職活動で気持ちが滅入ってしまっていて、表情にも不安な様子がにじみでてしまうようです。
写真BOXの鏡に映る自分を見るとその自信のない表情に自分でも嫌になってしまいます。
陰鬱な表情の写真になってしまうのです。
アルバイト程度の写真ならスピード写真でもそこそこの写真になるから良いのでしょう。
たぶん、アルバイトという気軽な気分の気軽な写真なので、表情も気軽になるのでしょう。
しかし、崖っぷちの転職活動では、崖っぷち感がヒシヒシと伝わるような写真になってしまうのです。
そこで、写真館で履歴書用の写真を撮ってもらうことにしたのです。
職務経歴書の添削をプロにお願いしたのと同じように、写真もプロにお願いすることにしたのです。
職務経歴書はハローワークで無料でしたが、写真撮影は無料というわけには行きません。
当時はお金にも困っていましたが、陰鬱な表情の写真で面接まで漕ぎつけるとはとても思えなかったので、写真撮影代をケチることはしませんでした。
スピード写真機の中でああでもないこうでもないと素人が試行錯誤するくらいなら、はじめからプロの写真家に任せてしまうのが解決方法としては一番の近道で安全なのです。
今では、iPhoneでもきれいに撮れるようになったし、写真の修正も色々と細かくできるようになっているのでしょう。
しかし、まだまだプロの写真家の「技」は健在だと思います。
ワタシは、街の写真館をいくつか巡りました。
古びてさびれた写真館が多くて、心配になりました。
こんな写真館で細々とやっているお店で大丈夫なのだろうかと。
その中でワタシが選んだのは、お店の前に実際に撮影した写真のサンプルがたくさん飾ってある写真館でした。
飾ってある写真が1~2枚ではダメです。
そんなに少ないとそれらは自分の家族だけがモデルになっているのかもしれません。
それでは写真の腕に不安がありそうです。
何枚も飾ってあって、しかも多くの人のサンプル写真が飾ってあるところが良いでしょう。
同じ家族の写真が成長とともに飾ってあるところも良いでしょう。
それらは家族の自慢の写真です。
それを店頭に飾っても良いとお客さんが言えるのは、なぜか。
その写真を気に入っているからだし、それを撮ってくれた写真家の方を腕を信頼しているからだと思います。
ワタシはそんな写真がいっぱい飾ってある地元の小さな写真館に履歴書の写真の撮影をお願いしました。
写真館に飾ってあるガラスケースの向こう側にある写真は、記念日に取ったものが多いようでした。
みんなきれいな服を着ていました。
記念日に高揚した良い表情の写真ばかりです。
七五三お祝いや成人式の写真。
これは卒業式のものでしょうか。
還暦のお祝いの家族集合写真。
どれも楽しい雰囲気の伝わってくるものばかりです。
一方で、ガラスケースに反射した自分の姿は惨めなものでした。
ボサボサで伸びきった髪の毛に無精髭とヨレヨレの服。
自信のなさそうな表情。
ワタシはその足で床屋に行き、さっぱりと散髪をしてきました。
スーツをクリーニングに出してワイシャツを綺麗にアイロンがけしました。
靴は写真に写らないとしても、きれいにピカピカに磨きなおしました。
不思議なもので身だしなみを整えてきれいなワイシャツとスーツを着ると何となく自信が出てくるような気もするのです。
少しだけ気分が上がったところで、はじめて写真館に入って少し緊張しながら履歴書の写真の撮影をお願いしたのでした。
面接用写真の後日談(その後の話)
その後、無事に崖っぷちの転職活動は終わりまし。
希望する会社に転職することができました。
大きな会社ではないので、転職してしばらくしてから面接の時の話がお酒の席で話題に出ました。
その中でこんなことを言ってくれる先輩がいました。
「キミの履歴書のあの写真良かったよ。目に力があった。きれいな写真で、アレ自分で撮ったの?ああ、写真館で撮ったのか。やっぱりそうか。ちがうよなねぇ。やっぱりプロは違う。こうなんていうか、ほかの人の写真と比べても一目で全然違うんだよ。やっぱりプロは違うよな」